何度か書いているが、自分は小松左京のファンであり、ほとんどの小説は読んでいる。でも「アメリカの壁」は名前くらいしか記憶に残っていない。もちろん小松左京の短編小説は山のようにあるし、ほとんど読んだと言っても、全部覚えているわけではない。むしろ30年以上経って忘れてしまった方が多い。
気になるのでちょっと調べたら、「アメリカの壁」は1982年に文春文庫から出ているので、やはり読んでいる可能性が高い。同じ本に収録されている「眠りと旅と夢」や「ハイネックの女」などは記憶に残っている。
いよいよ気になったので、Kindleで購入した。話題になったおかげか「アメリカの壁」だけで電子書籍で売られている。短編一つで買えるのも電子書籍の良いところだと思う。
アメリカの壁 小松左京e-booksセレクション【文春e-Books】
小松左京(著)
面白いが60頁の短編なので小粒でもある。あと、印象に残りづらかったのは、アメリカが「壁」により世界から孤立するというアイデアが、すでに「物体O」 (1964年の作品)で読んでいたからだろう。こっちは、壁に遮断されるのは日本だが。
広大な地域が外の世界から孤立するアイデアは、この後「首都消失 」(1985年)でも使われるから、お気に入りだったのだろうか。だいたい10年おきだが、三作とも「***が世界から完全に遮断されたら」という設定が共通なだけで、内容的には全く別の作品ではある。
話しを「アメリカの壁」に戻すと、確かに今のアメリカを予言していたと言えなくもないが、むしろ70年代終り当時のアメリカの状況が今と近いのだろうと思う。このあと、80年代に入って日米の貿易摩擦だととか、スーパー301条だとか、日本車壊したりだとか、色々騒ぎがあったような気がする。
「アメリカの壁」は短編集もKindleで販売されているので、未読の人はこっちの方もお勧め。
アメリカの壁 (文春文庫)
小松左京(著)
収録「眠りと旅と夢」「鳩啼時計」「幽霊屋敷」「おれの死体を探せ」「ハイネックの女」